家電量販店のA
新しいパソコン(ノート)が欲しいなと前々から思っていたので、実家にいる今のうちに買っとくかと、近くの家電量販店に行ってきた。
欲しいパソコンの大体の構想はできていて、別にパソコンでゲームとかするわけでもないからそこまでスペックを求めているわけでもなく、持ち運びに便利で充電が持つ、そんなパソコンを探しており、パソコンの大きさ・重さ、ディスプレイの大きさなどを体感しておきたいと思ったのだ。
ディスプレイは11~14インチかなと思って実際に探しに行ってみたけど、あれ、15.6ばっかだぞ・・・
店員に聞いてみると、なんとそれらのサイズのパソコンは一切置いてないとの事だった。
いやいやウルトラブックとかあるじゃん?なんで置いてない訳よとなったわけで、このままじゃ無駄足じゃんと思い、なぜ置いてないのか聞いてみた。
すると、なんかむしろ店員がキレ気味に
「お客さんねえ、ここは田舎なんですよ。車ばっかり使っててね、電車や徒歩でパソコン持って移動なんてしないんですよ。そんなトコにそーいうサイズのパソコンの需要あると思います?ここではね、家にずっと置いて使う人が圧倒的に多いんですよ。」
とかなんとかまくしたてられちゃったのである。しかも口臭い。
いやいや、なんでちょっと怒ってんのよと思った訳なんだけれども、この店員にも色々あったのかなあと考えてみる。
店員をAとする。
*
Aは昔からパソコンが大好きで、都会の家電量販店に勤めていた。
もちろんパソコンのブース担当だったが、彼はスペック厨というよりもそのフォルムや利便性に惚れており、特にウルトラブックが大好きだった。
大好きなパソコン囲まれ、そしてその知識をフルに使えるその仕事場が大好きだった。
しかしそんな彼に大きな転機が訪れる。転勤だ。
家電量販店に務める営業マンには避けられない道ではあったが、なんとその移動先がど田舎の店舗だったのだ。
しかし田舎であるが故に他店舗との競争はあまりなく、営業としては楽であるとも言われており、意を決してその転勤を受け、そのど田舎に越してきた。
田舎の生活は悪くなかった。大昔ではあるまいし、インターネットもなんでも完備である。不便があるとしたら公共交通機関が発達していない点くらいだろうか。
なんだ田舎も悪くないじゃないか、よし、ここでもう一度頑張ろうと気合を入れた初めての出勤の日、Aは驚くべき光景を目の当たりにするのであった。
なんと都会ではあんなに輝いていたパソコンのブースは、ここでは見る影もなく小規模で、あろうことかウルトラブックは一台も置かれていなかったのだ。
やはり田舎は田舎なのか、まだウルトラブックの波が来ていなかったなんて。仕方ない、俺が培ってきた知識を総動員してここにもウルトラブックの波を起こさせてやろう。
そう気合を入れなおしたAは店の上層部に掛けあってみる。初めはそんなもの売れるわけないと相手にしてもらえなかったが、Aの熱心な説得の末、いくらかのウルトラブックを置いてもらえるようになったのだ。
これで俺の知識を余すことなく使える・・・。そう息巻いていたが、現実は思うように行かなかった。
都会ではあんなに売れていたウルトラブックが、全くと言っていいほど売れなかったのである。
そこでAは真実を知ることとなる。
家電にも地域性はあるということを。
彼は勘違いをしており、田舎だからウルトラブックが置かれていなかったというわけではなく、単純に需要がないから置かれていなかっただけだったのだ。
ウルトラブックの素晴らしさならいくらでも説明出来た彼だったが、その存在を知った上で選ばない人たちの心を揺さぶることはできなかった。
Aは荒れた。大好きだったウルトラブックが認められなくて悔しかった。
絶っていたタバコもまた吸い始めてしまい、酒癖も悪くなった。
Aはもうウルトラブックをこの田舎の家電量販店に置こうなどとは思っていない。それは完全に需要を無視した、営業としては完全なる失敗だったからだ。
あれだけウルトラブックが好きだったのに、厳しい現実を見るとそれを皆に知らしめたいという気持も、葛藤こそあったものの、少しずつ収まってきたようだ。
ウルトラブックが売れない理由は納得のできるものだったし、郷に入れば郷に従えというじゃないか。俺はここで生きていくんだ。そう思えるようになっていた。
そんなある日、生意気そうな青年がやってきた。
そいつは言う。
「え、こんなにパソコン少ないんですか。少なくとも14インチ以下のパソコン見たかったんですが。ウルトラブックとか一台も置いてないし。なんだこれ」
こいつ・・・
教えてやる。現実の厳しさってやつを・・・